SPACE:286.72㎡
本プロジェクトは、PLAY PRODUCT STUDIO CO.,LTDが展開するMAISON SPECIALとPRANK PROJECTの2つのブランドが1つの空間内に共存する特別な店舗である。
元々レストランとして使用されていた、吹き抜けの大空間と三角屋根の天窓から降り注ぐ自然光が印象的な2フロアの建物内に、1FをMAISON SPECIAL、2FをPRANK PROJECTとし、それぞれのブランドのアイデンティティが感じられる空間構成が求められた。
本件が所在する福岡市は、穏やかな内湾地形の博多湾を中心として、湾に注ぐ河口部には漁業や海運業を営む浦々が形成され、その奥の稲作に適した肥沃な平野部では早くから農村集落が形 成され都市文化が支えられてきました。
また、長く続く歴史をみると、性格が異なる都市が重層的に形成されて発展しており、人々をひきつけ、モノと人を繋ぐ接点となってきた背景があります。
地域の文脈や、歴史背景を読み解くことは、プランを計画する上でのベースとなり、その土地特有の魅力(オリジナル性)として、一過性ではなく、耐久性のあるデザインになると信じています。
福岡の立地の特徴、歴史的背景を元に、性格が異なるブランドを1Fと2Fにそれぞれ配置し、多様な要素を重層的に備え、人々をひきつけ、モノと人を繋ぐ接点となることを目指しました。
性格が異なる2つのブランドを一つの建物内に配置するにあたって、まず検討が必要だったのはエントランスの配置とサイン計画を含むファサードの計画だった。元々の入り口は一箇所しかなく、吹き抜けが中央にあり、2階へのアクセスの階段も中央右端に位置しており、1つの空間として捉えられ、1Fの空間を経由しなければ2Fへと辿り着けない導線であった。検討の末、各ブランドの入り口をそれぞれ設置し、ファサードの素材をブランドごとに切り替えることで一つの建物に2つのブランドが入っていることをわかりやすく提示した。入ってすぐの吹き抜け大空間には、高さを変えながらカーブしたダイナミックな壁を設置し、1Fのエリアと2Fへ繋がる階段へのエリアとに分けられ、その壁は大空間を引き立てる効果も有している。
1FのMAISON SPECIALは、国内10店舗目となり、各地域の特性や魅力をコンセプトに、各店舗で異なるデザイン空間を生み出している。
ブランドコンセプトである「SPECIAL を、STANDARD に」を再解釈し、
当たり前に過ごしている日常に疑問を投げかけ、日常(STANDARD)の中にある非日常(SPECIAL)を覗かせることをインテリアコンセプトに空間を構築してきた。
今回は、既存建物自体が、吹き抜けの大空間と三角屋根の天窓が既に設られた非日常的空間として捉えられ、且つ都市圏における物件として考えると特異性(ポテンシャル)がある物件として考えられた。特に、2Fから1Fを見下ろすことができるという点、逆に1Fから2Fを見上げることができるという点がプランを考慮する上で大きく影響した。
既存の状態を出来るだけ許容し、もともとあるモノをできるだけそのままに、箱が持つポテンシャルを最大限に活かし、どれだけ新しい視点や価値を見出し、魅力的な空間をつくれるかということを熟考した。解体中に発生したレストラン時代に使用されていた床材は積極的に再利用し、スツールや什器、ベンチなどに変換することを提案し実現した。
結果として、既存の状態を出来るだけ許容する考え方は、解体時に生じる廃棄物を減ら
すと同時に新しく製作物を作ることを減らすことにも繋がったと考えている。
コンセプトには、地域性や文脈、歴史背景などをリサーチし、福岡ならでは、且つ福岡の生活に密接したキャッチーな要素が求められた。
そこで私たちは、福岡の生活における食文化に着目し、日本三代ラーメンとしても有名な福岡のラーメンをベースに空間コンセプトを提案した。
キーワードは「トッピング」「替え玉」「追いスープ」。
福岡といえば、豚骨ラーメンが有名であり、卵、紅生姜、海苔、メンマなど、各々がさまざまな「トッピング」を行い、オリジナルの組み合わせでラーメンを楽しむ。
また、食べ終えた後に、空腹が満たされなければ、「替え玉」や、スープが減った時には「追いスープ」という麺の追加や、スープの追加を依頼することが出来る。
そこで、空間自体を1つの器として捉え、そこにオリジナルの什器の「トッピング」を行う。
機能や素材が足りない部分に関しては、既存に対して、上書きや新規で制作をするのではなく、既存部を尊重し、追加(替え玉=替えデザイン)や、継ぎ足し(追いスープ=追いデザイン)を行い既存のデザインに新しいデザインを繋いでいくことを考えた。
追加(替え玉=替えデザイン)や、継ぎ足し(追いスープ=追いデザイン)された部分は、既存の素材や風合いに合わせるのではなく、あえて、異なる色や艶感を出すことで象徴的なデザイン要素として捉えられ、既存の箱をベースにした新旧の組み合わせの妙こそが、この物件のオリジナリティであり、そこから建物が持つ文脈や歴史を感じ取ることも出来るのではないかと考えている。
2FのPRANK PROJECTは、
ブランドのコンセプトワードである、PRANK(いたずら)という言葉に込められた遊び心からデザインの発想を探ることを考えた。
1Fの要素の多い空間とは相反し、要素を極力減らし、11mほど続く、木目が特徴的なウォルナットのR壁や、高さ6mほどのカーテンなどを計画し、空間の持つダイナミックなスケール感を伝えることに注力した。柔軟で自由な発想で、いたずらにスケールアウトした素材使いは、固定概念に歪みを生じさせ、ブランド独自の世界観へとつながると考えている。
また、店内に置かれる家具は、いづれも20世紀を代表するスーパーデザイナーたちがデザインした家具たちで、現代では名作家具と呼ばれているが、さまざま事柄や出来事をきっかけに当初は遊び心ある発想から生まれた家具たちかもしれない。
遊び心から生まれたアイデアやプロダクトが、時を経ることで、モノの捉え方や視点の変化があり、確かな価値へと変容することがある。
時代によってPRANK と感じるものも変わっていくだろうし、PRANKという言葉自体の価値も変わっていくかもしれない。
PRANKを感じる空間に、現代を象徴する様なコンテンポラリーなデザイン家具や什器と、名作家具の両方を置く事で、発想が価値に昇華していくストーリーを込める。
性格が異なる2つのブランドが一つの空間に等価に共存している面白さを感じていただきたい。また、重層的に構成されているこの街に、このショップが新たなレイヤーを重ねることができたと考える。
PHOTO BY KENTA HASEGAWA