2018年に立ち上げたブランドの国内初の旗艦店舗。
ブランドコンセプトは「good is good」というシンプルさと誠実なもので、素材や製法に対するこだわりが特に際立つブランドだ。またデザイナー自身は、日本とアメリカの文化が入り混ざり独特の雰囲気があると言われている西東京の福生市で生活をしていたこともあり、日本の伝統技術や、アメリカのミッドセンチュリーやアメリカンビンテージなどに強い影響を受けている。
まず私たちは、日本とアメリカの文化が入り混ざる福生市に赴き、デザイナーがどのような環境で育ち、どのようなモノに影響を受けたかということを身をもって体験しに行った。デザイナーの記憶に残るアメリカン古着、ビンテージ家具やビンテージ雑貨などをリサーチした。「日本史上初のピッツェリア」として知られる「ニコラ」には家族で良く足を運ばれたようで、イタリアンレストランではあるもののマホガニーやプライウッドの家具に赤いカーペットの組み合わせなど、どこかアメリカの雰囲気が感じられる不思議な空間であった。戦後から米軍基地の街として発展した福生市の歴史や独特の空気感を強く感じることができた。
また本計画地は、恵比寿通りに面する路面店舗であり、2008年に建築家の千葉学が設計したことでも知られる建物である。千葉学の建築の特徴としては、周囲の環境や都市とのつながりを持ちつつ、素材を丁寧に扱い光と影の表情を引き出すシンプルながらも深みを感じる建築作品が多い。建築への敬意や魅力を消すことなく(自然光を取り込む大窓を有する外観や構造部には手を加えずに設計を行う)、ブランドのコンセプトや思想、デザイナーの背景や記憶を感じられる内装空間を創り上げることを目指した。
地上3F建ての1Fと2F部分は売り場として計画し、3Fはストックルームとなる。空間の構成する素材としては、
・ミッドセンチュリー期の家具などで使用されていたマホガニーやプライウッド(どちらもアメリカにルーツを持つ素材として考えている)
・赤いカーペット(福生市での記憶を表現する素材として使用)
・イタリアントラバーチン(大理石の中でもトラバーチンには穴や空洞という特徴があり、今回はそれらを1つ1つ職人の手作業で埋めている。床、壁、什器には、職人の手跡が残る素材選定を行なっている)
・白漆(長年の経験値により、漆に白の顔料と透明塗料を組み合わせ、木地呂漆の応用技術により、オリジナルの白漆となっている)
・真鍮(お店の歴史と共に経年変化が楽しめる素材として使用、HGパイプの小口にはブランドの頭文字である「N」が刻印されている)
1Fのメイン什器は、ブランドの頭文字である「N」を表す形状の、プライウッドをベースにした多段什器だ。仕上げは京都の漆職人に依頼し、白漆を選択した。直線的なデザインの中に少しの曲線を用いることで、シンプルな中にも重なり合うことで少しの複雑さが生まれ、また、アメリカにルーツがあるプライウッドに日本の伝統技術である漆を施すことで、ブランドが持つ職人へのリスペクトやデザイナーの背景や記憶などが表現されている。福生市の記憶の余韻をもたらす象徴的な赤いカーペットが敷かれた暗がりの階段を2Fへと上ると、マホガニーとプライウッドで構築された什器が並ぶ。1Fと同素材のシンプルな構成ではあるが、組み合わせ方により雰囲気の異なる空間が、多面性を持つブランドの世界を体現している。
NICENESSの新しい旗艦店は、カジュアルとラグジュアリーが混在する恵比寿の街の中でも、存在感を強め、ファッションだけでなく、デザイン、建築に関心のある人が集まり、空間体験を通して「文化を発信する場」としても機能する。買い物を深化させることで、国内だけでなく、インバウンド客や海外のバイヤーやデザイナーの目的地ともなり、東京のファッションシーン全体の発展や街の発展にも貢献する。